<< November 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 武田泰淳『目まいのする散歩』『富士』『快楽』、武田百合子『日日雑記』 | main |

武田泰淳『秋風秋雨人を愁殺す』『十三妹』&『秋瑾 火焔の女』

0

    武田泰淳著『秋風秋雨人を愁殺す』(筑摩書房 昭和43年)

         『十三妹(シイサンメイ)』(中公文庫 2002年)

    山崎厚子著『秋瑾(しゅうきん) 火焔の女』(河出書房新社 2007年)

     

     武田泰淳の『秋風秋雨人を愁殺す』は中国清時代末期に革命を目指した女傑、実在の人物である秋瑾(しゅうきん)を主人公とした作品です。また『十三妹』は、中国清時代後期の「児女英雄伝」を原作としており、中国清時代に活躍した女侠(任侠の女性版)を主人公に、忍者なども加えた波乱万丈の活劇物語です。両書とも武田泰淳の他の先品とはかなり違っているようにも思えますが中国文学に造詣が深い作者の興味の対象になっていたようです。

     山崎厚子著『秋瑾 火焔の女』は、武田泰淳著『秋風秋雨人を愁殺す』と同じく秋瑾を主人公としていますが、よほどこちらの方が読みやすく書かれています。

    以下は『秋風秋雨人を愁殺す』からの引用です。

     

     秋瑾女士が刑死したのは、1907年7月15日、光諸33年の6月5日午前、明治40年のことである。逮捕されたのは、6月4日の午後、紹興の大通学校(大通学堂)において、一夜明けて処刑されたのは、紹興の軒亭口においてである。

     

     何かしら志をいだいているかっての血なまぐさい時代の女性たちにとって、「刀」とは、その志を守るためのものであった。そして、非常のときに志を守るとは、多くの場合、自らの命を絶つこtであったから、やはり、生き延びるためよりは、死に急ぐために用いられていた。秋女子が刀剣について彼女の詩想を、あるときは悲しげに、あるときは勇気と怒りをこめて、みちひろがらせているのは、彼女が彼女の革命思想を、自殺用の短剣として握りしめていたからではなかろうか。男どもが甘んじて異民族の奴隷となったまま、外に向かって刀を用いようとしないから、せめて女どもが内に向かって(つまり自分自身の肉体めがけて)刀を用いなければならなくなる。

     「女は辱じて自殺をなし、男は甘んじて順民となる」

    壁に掛けられた神剣が夜半、長くうそぶいて、烈々たるその声は梟の鳴くがごとくであった、その原因が、みにくく生き長らえるたがる男に対する、いさぎよく死にたがる女の恨みと励ましの噴出だったとすれば、その切っ先は・・・・・・。

     秋女子は、明朝滅亡の才さいに自刎(じふん)した宮女を架空のヒロインとして「某宮人伝」をつくっている。自刎とは、自分の手で自分の首をはねること。これは咽喉や乳の下を突き通すより、腕の力を要する死に方であろう。おそらく首の後ろ側に刃をあてがい、その両端を左右に手で握り、一気に前方へ引き下げるのであろうか。

     

     東京における魯迅と秋瑾の接触について、周作人『魯迅の故家』に、見逃しがたい記録が一つある。

    「秋瑾は魯迅と同じころ日本に留学していた。清国留学生取締規則が発表された後、留学生はこぞって反対運動を起こし、秋瑾が先頭になって全員帰国を主張した。年配の留学生は、取り締まりという言葉は決してそう悪い意味ではないことを知っていたから、賛成しない人が多かった。それでこの人たちは、留学生会館で秋瑾に死刑を宣告された。魯迅や許寿裳もその中に入っていた。魯迅は彼女が一振りの短剣をテーブルの上に投げつけて、威嚇したことも目撃している」

     性急な帰国をがえんじないで、日本での勉学を続けようとする男たちが、秋瑾の眼には、すべて腰抜け、卑怯者として映っていたにちがいない。「私の言うことをきかない者は、みんな死んでおしまいなさい」と、ののしり大声を発している彼女の表情がありありと目に浮かんでくるが、同時に、そのような極度の興奮状態に落ち入っている彼女に注目している魯迅の、きびしい冷酷な表情も、私にはよく想像することができる。

     もしも私が彼女をヒロインとする劇を書くとすれば、壇上で絶叫する女性志士と、その罵声を浴びて黙って座っている医学志望の文学者の姿を、どうしても一場面くわえてみたいところである。

    shr-horiuchi * こんな本を読みました * 21:34 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

    コメント

    コメントする









    トラックバック

    このページの先頭へ