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夏目漱石『漱石 傑作講演集』・『漱石 人生論集』

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    夏目漱石『漱石 傑作講演集』(ランダムハウス講談社 2007年)

        『漱石 人生論集』(講談社文芸文庫 2014年)

     

     日本人なら誰でも知っている文学者と云えばやはり夏目漱石だと思いますが、誕生が1867年2月9日で、亡くなったのが1916年12月9日、享年50歳と意外に短い一生です。2016年が生誕150年、2017年が没後100年で、昨年から今年にかけて夏目漱石の作品が新たに出版されたりして何かと話題も多いようです。

     私も漱石の作品で読んだと言えば、確かな記憶では『坊ちゃん』『吾輩は猫である』『草枕』『こころ』ぐらいいですが、高校の国語の時間に夏目漱石といえば「則天去私」「惻隠の情」と教わったことは今でも覚えています。

     『漱石 傑作講演集』も『漱石 人生論集』も、小説とは違った面白さがありますが、最初に『傑作講演集』の目次を紹介しますと、「道楽と職業」「現代日本の開化」「中味と形式」「文芸と道徳」「文芸と哲学的基礎」「模倣と独立」「おはなし」「私の個人主義」の8編で、今回は、「文芸と哲学的基礎」から引用します。

     

     ここいらで前段で述べた事を総括しておいて、それから先へ進行しようと思います。(1)吾々は生きたいという念々に支配せられております。意識の方から云うと、意識には連続的傾向がある。(2)この傾向が選択を生じる。(3)選択が理想を孕む。(4)次にこの理想を実現して意識が特殊なる連続的方向を取る。(5)その結果として意識が分化する。明瞭になる、統一せられる。(6)一定の関係を統一して時間に客観的存在を与える。(7)一定の関係を統一して空間に客観的存在を与える。(8)時間、空間を有意義ならしむるために数を抽象してこれを使用する。(9)時間内に起こる一定の連続を統一して因果の名を附して、因果の法則を抽象する。

     まずざっと、こんなものであります。してみると空間というものも時間というものも因果の法則というものも、皆便宜上の仮定であって、真実の存在しているものではない。これは私がそう云うのです。諸君がそうでないと云えばそれでもよい。ご随意である。とにかく今日だけはそう仮定したいしたいものだと思います。そうでないと話が進行しません。

    なぜこんな余計な仮定をして平気でいるかというと、そこが人間の下司な了簡で、我々はただ生きたい生きたいとのみ考えている。生きさえすればどんな嘘でも吐く。どんな間違いでも構わずに遂行する。真にあさましいものどもでありますから、空間があるとしないとしないと生活上不便だと思うと、すぐに空間を捏造してしまう。時間がないと不都合だと勘付くと、よろしい、それじゃ時間を製造してやろうと、すぐ時間を製造してしまいます。だからいろいろな抽象や種々な仮定やは、みな背に腹は代えられぬ切なさのあまりから割り出した嘘であります。そうして嘘からでた真実であります。

     

     我に対する物を空間に放射して、分化作用でこれを精細に区別していくます。同時に我に対しても亦同様の分化作用を発展させて、身体と精神とを区別する。その精神作用を知、情、意の三つに区分します。それからこの知を割り、情を割り、その作用の特性によってまたいろいろに識別していきます。この方面は主として心理学者が専門として担当しているから、これらの人に聞くのが一番わかりやすい。もっとも心理学者のやることは心の作用を分解して抽象してしまう弊がある。知情意は当を得た分類かも知れないが、三つの作用が各独立して、他と交渉なく働いているものではありません。心の作用はどんなに立ち入って細かい点に至っても、これを全体として見るとやはり知情意の三つを含んでいる場合が多い。だからこの三つを截然と区分するのは全く便宜上の抽象である。この抽象法を用いないで、しかも極度の分化作用になる微細なる心の働きを全体として写して人に示すのはおもに文学者がやっている。

     

    shr-horiuchi * こんな本を読みました * 21:14 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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