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ハーパー・リー著『アラバマ物語』・『さあ、見張りを立てよ』

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    ハーパー・リー著

     『アラバマ物語』 訳 者:菊池重三郎(暮らしの手帳社)

      原 題:「 To Kill a Mockingbird 」

     『さあ、見張りを立てよ』 訳 者:上岡伸雄(早川書房 2016年12月)

     原 題:「 Go Set a Watchman」

     

     アメリカ合衆国のトランプ大統領が就任後に大統領令を次々と出してアメリカのみならず世界中で物議を醸しています。なかでも一部のイスラム教国からの移民・難民の受け入れの一時的とはいえ禁止に対して反対を唱えるデモ隊がマスコミでは目につきますが、アメリカの調査ではこの大統領令に賛成する人が49%と反対派よりも多数となっているようです。

     このことは、建前としての正義ではなく、心情として「古き良きアメリカ」を生活信条とするアメリカ人が多数いることを示しており、その人たちの感情に訴えた政策がトランプを大統領にしたといえます。

     

     アメリカで1960年に発表されたハーパー・リーの『アラバマ物語』は、デビュー長編ながらピュリッツアー賞を受賞し、原作が1962年に映画化され、評判も高く主演のグレゴリーペックは主演男優賞を受賞しています。以下は『さあ、見張りを立てよ』の訳者の後書から引用です。

     『アラバマ物語』の舞台は1930年代のアメリカ南部アラバマ。黒人たちは白人たちからの激しい差別に曝されていた。そんな時代にアラバマ州のメンコムという田舎町で、黒人青年が白人の娘をレイプしたという嫌疑をかけられる。主人公ジーン・ルイーズの父である弁護士のアティカスは黒人青年の無実を信じ、彼をリンチしようとする白人たちの暴徒に果敢に立ち向かうとともに、裁判でも白人の陪審員たちの良心に訴えかける感動的な弁論をするが。このメインプロットが公民権運動の時代に多くの共感を呼んだと同時に、読者を魅了したのが主人公ジーン・ルイーズを初めとする子どもたちの姿であった。

     『さあ、見張りを立てよ』の舞台はアラバマ物語から20年後の1956年、主人公のジーン・ルイーズがニューヨークから故郷のメンコムに帰ったところから始まります。1955年にアラバマではバス・ボイコット運動が始まり、キング牧師を中心とする公民権運動が盛り上がりをみせていた。それに対する南部の白人の抵抗も激しく、黒人に対する暴力沙汰が頻発し、アメリカ北部ならず全世界から非難の眼は南部に向けられていた。父アスティかから人間平等の精神を受け継いだジーン・ルイーズは、今は北部に住んでいることもあって、当然ながら人種差別に対して嫌悪感を抱いている。ところが南部の故郷に戻って愕然とする。

    父アスティカと恋人のヘンリーが人種差別的な集会に参加し、白人優越主義者の演説を聞いているではないか。彼らもも黒人の公民権運動に批判的なように見える。一方、白人と黒人の溝は深まっているようだ。黒人の権利のために戦った父は何処へ行ってしまったのか。ジーン・ルイーズは煩悶し、最後には父を激しく非難する。しかし・・・・・。

     

     本書を読み進むうちに感じずにはいられなかったのは、作者が本当に書きたかったのは、もしかしたらこちらではないのかということだ。そう簡単に差別を撤廃できない南部の事情、南部の人の複雑な心情、立派な父の影響を受け過ぎた主人公のジーン・ルイーズが父を乗り越えていく姿。

     主人公はリベラルな考えを持ちながらも、州の自治に連邦政府が介入すべきではないという考えの持ち主だし、黒人に対する差別意識も皆無とは言えない。作者自身、北部が押し付けてくるラディカルな解決法には反発もあったようで、だから拒否反応を示す南部人たちの気持ちも理解できたのであろう。

    shr-horiuchi * こんな本を読みました * 20:31 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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